営業におけるDXの重要性やメリット、具体的な取り組み事例を紹介
企業においてデジタル化を推進し、ビジネスモデルの改革をはかるDXが重視されています。このような流れのなかで、営業活動にもDXを取り入れることが求められるようになってきました。
営業活動はリソース不足やリードタイムの長期化など多くの問題を抱えていることから、DXを推進して課題の解決をはかる必要があるといえます。そこで今回は、営業におけるDXの重要性やメリット、具体的な取り組み事例などをご紹介します。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、IT技術やデジタル化を通じて自社のビジネス変革を促し、新たな企業風土やビジネスモデルを創出する活動のことです。
DXをはじめて提唱したのはスウェーデンのウメオ大学で教授を務める「エリック・ストルターマン」氏で、発表された論文のなかでは「データとデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革すること」がDXの定義であるとしています。
近年では日本でも業務効率化や生産性の向上、働き方改革などの複数の観点からDX推進が注目を集めていますが、残念ながらDXの導入は進んでいるとはいえない状況にあります。
2025年の崖が問題視されている
グローバルな視点からみるとDXの推進に遅れが生じているといえる日本ですが、このままDX推進が進まずにいると「2025年の崖を迎える」という「DXレポート」が2018年に経済産業省より発表されています。
2025年の崖とは、「老朽化やブラックボックス化が進行したシステムの更改を進めないまま2025年を迎えると、日本全体で年間最大12兆円もの経済損失を産む可能性がある」という試算をもとにした考え方です。
日本国内の企業は未だレガシーシステム(老朽化やブラックボックス化が進行した古いシステム)を用い続けているケースが多く、レガシーシステムを維持し続けるためには専門知識をもった人材が必要なうえに膨大なコストやリソースがかかります。
加えて2025年には現在よりもIT人材が不足するといわれており、多くの企業が導入しているSAPやERPといった業務用パッケージのサポート終了が控えていることから、2025年を境にDXの推進が難しくなるという問題があります。
2025年の崖を回避するためには、DXレポートでも指摘されているように各企業が早急にレガシーシステムを新しいシステムに切り替えたうえで、豊富な知識とスキルをもったIT人材を育成することが重要だと考えられます。加えて、ビジネスモデルを時代の流れに合わせて転換していく必要があるといえるでしょう。
営業活動における企業の課題
営業活動における企業の課題にはさまざまなものがあり、特に次の3点がよく課題に挙げられます。
リードタイムが長期化している
受注までのリードタイムが長期化することは、結果的に企業の売上を低下させる原因になると考えられるため、解決すべき問題のひとつといえるでしょう。
1人の営業がフォローできる見込み客には限界があるため、同じ受注額であっても受注までの期間が2倍かかればフォローできる総数が減少し、本来なら獲得できていた将来的な受注を逃してしまう可能性があります。
特にBtoBにおいては意思決定者が多いことからリードタイムが長期化しやすく、短縮をはかるための工夫を考慮する必要があるといえます。
リソース不足の深刻化
見込み客の数が増えるほどフォローしなければならない案件は増えていきますが、動ける営業の数は限られているため、リソース不足が深刻化します。リソース不足を解消しようとすると営業部門にかかる負担が増大し、そこで負担を軽減するためにフォローする見込み客を絞り込めば受注の可能性を自ら狭めてしまうことにもなりかねません。
このようなリソース不足を解消するためには、後述する営業DXを意識した営業活動に方針転換する必要性があると考えられます。
営業の能力にばらつきがある
個々人で営業の能力にばらつきがあるという課題は、どのような現場でも比較的よくみられます。優秀な一部の営業が売上の大部分を担い、ほかの営業が残りの売上を担うという構図は、優秀な一部の営業に大きな負担を強いることになります。
営業の能力を部門全体で平準化し、誰でも平均以上の成果を上げられるような仕組みづくりを行わなければならないという課題については、多くの組織が頭を悩ませているといえるでしょう。
営業DXの重要性
これまで営業活動ではアナログな手法が積極的に取り入れられており、営業リストに沿った飛び込みでの訪問やメール送信など「数を稼ぐ」スタイルが主となる時代が長く続いていました。
しかし近年ではマーケティングをはじめとした多くの業務がIT技術により効率化されている流れを受けて、優秀な一部の営業に大きな負担を強いることになります。営業活動にもデジタル化を組み入れることが検討され始めています。
このことから、市場の動向を観察し顧客のニーズに合わせて営業プロセスを新しく組み替え、従来のアナログな営業スタイルから脱却することが求められているといえるでしょう。
見込み客の抽出や受注に向けたクロージングも、従来は営業の知識や経験で「なんとなく」判断されていた側面もありましたが、近年ではIT技術の活用によってデータ分析を行う戦略を多くの企業が取り入れつつあります。
データを活用することで多くの営業が平準的な成果を上げられるようになり、効率的な受注獲得が可能になる体制づくりが「営業DX」の目的のひとつであるといえます。
営業DXのメリット
営業DXを取り入れるメリットとしては、次の3つが挙げられます。
データ活用を推し進められる
従来型のアナログな営業活動においては、前述の「数を稼ぐ」スタイルにはじまり、データに基づかない行動がとられるケースも数多くありました。そこでIT技術を活用して営業DXを推進することで顧客データを蓄積・分析できるようになるため、社内のデータ活用の推進につながるといえるでしょう。
市場にはさまざまなデータがあふれており、「蓄積したデータをどのように活用していくか」は自社の売上を左右するポイントのひとつだと考えられます。
十分なデータを得られないまま営業活動を行えば「この見込み客は長年の経験で受注できそうな気がするから、重点的にフォローしてみよう」という感覚的な行動になりがちですが、データに基づいた営業活動であれば「この見込み客は〇〇という傾向があるから受注に結びつきやすそうだ」という理論的な行動が可能です。
インサイドセールスによる営業効率化
営業DXを推進することでインサイドセールスを活用した営業体制が整い、営業効率化をはかれるようになるというメリットもあります。
インサイドセールスとはマーケティングと営業の中間に位置する役割であり、「マーケティング部門が獲得してきたリードとの関係構築を行い、十分に受注確度が高まった段階で営業部門に引き渡す」という業務を担います。
インサイドセールスにはCRM(顧客管理システム)やMA(マーケティングオートメーション)ツールなどがよく利用されており、自社の見込み客のなかで特に受注につながりそうなグループを抽出したり、グループ別に効果の高いフォローを行ったりすることで見込み客との関係構築を行います。
BCP対策
営業DXは、BCP対策の一環としても有効です。
従来のアナログな営業活動では顧客データもアナログで蓄積されるケースが一般的であり、災害などの理由でオフィスがなんらかの被害を受けた場合にデータを喪失してしまうリスクがあります。営業DXによってシステム化が実現していれば、オフィスが被害を受けた場合でも早期の復旧が期待できるでしょう。
さらに、訪問が中心の営業スタイルは災害時などに業務が完全にストップしてしまうリスクを抱えていますが、ITツールなどを取り入れた営業活動にシフトしていれば一部の営業活動は社内にいながらも継続が可能です。
営業DXの具体的な例
営業DXを実践する際は、既存の事例を参考にすることで道筋のイメージをつかみやすくなります。
ここでは、デジタルマーケティング、インサイドセールス、セールスイネーブルメントの3つの具体例をご紹介します。
デジタルマーケティング
デジタルマーケティングにおける営業DXの例として代表的なのは、「営業部門がリードの獲得を担当するのではなく、デジタルマーケティングによるリード獲得の仕組みを整えて、ITを活用したリード獲得を行うこと」です。
例えばメルマガ配信によって自社に対する読者の関心を高めたり、Webサイトでコンテンツを継続発信して訪問者を増やしたり、SNSアカウントを活用してフォロワーを増やしたりすることによって、新たなリードを創出できます。
従来型のリード獲得手法は、営業部門が営業リストを参考にしながらできるだけ多くの商談を取り付け、「会って自社の商品やサービスを説明し、興味をもってもらう」形が定番であったといえるでしょう。この手法では移動にかかる交通費や営業にかかる人件費が膨らみやすく、費用対効果が低くなりやすい傾向にありますが、デジタルマーケティングであれば社内にいながら新たなリードを獲得することができます。
インサイドセールス
従来は獲得したリードとの関係構築も営業部門が担っていましたが、営業DXによってインサイドセールスを活用できるようになれば、リードとの関係構築のための活動を営業部門と切り分けることが可能になります。
直接リードと顔を合わせて商談を行うためにはスケジュールの調整が必要になり、移動時間もかかることから、営業部門が1日にフォローできる取引先の数には限りがあります。加えて「サービスの内容が気になったので少し話を聞いてみたい」という確度の低いリードであっても、「受注を具体的に検討している」という確度の高いリードであっても、フォローするためには同じ労力が必要であったといえます。
そこでインサイドセールスを導入すれば、営業部門が商談に臨む前にリードに対して自社の商品やサービスの情報を発信できるため、現在の検討状況を確認したうえで確度の高いリードだけを営業部門に渡せるようになり、営業活動を効率化できるでしょう。
関連記事はこちらインサイドセールス導入成功のための3つのポイントとは?
セールスイネーブルメント
セールスイネーブルメントとは、営業活動の状況を数値で可視化して、進捗を最適化する手法のことです。営業部門をはじめとした組織が継続して成果を上げ続けるための仕組みを構築する目的で実施される取り組みであり、営業プロセスの見直しや自社の営業コンテンツの改善、担当者の評価や研修を組織全体で行うことによって組織全体の営業力の底上げにつながります。
元々はアメリカで提唱されていた考え方で多くの有用なツールが登場していますが、日本でもセールスイネーブルメントの考え方が重要視されてきています。
関連記事はこちらセールスイネーブルメントの基本的な考え方や取り組み方をご紹介
営業DXを成功に導くポイント
営業DXを成功に導くためには、次の5つのポイントを意識することが大切です。
自社のDXの目的を明確にする
一口に営業DXといっても、導入目的は企業によってさまざまです。リード獲得の効率化、受注率の向上、優良顧客の増加など自社の目的を明確化することによって、「どのような営業DXの戦略をとらなければならないのか」が明らかになります。
やみくもに営業DXに取り組むのではなく、まずは「自社は何のために営業DXを推進するのか?」を洗い出したうえで、具体的な戦略の立案に移ることが重要です。
顧客が抱えている課題を明らかにする
顧客が抱えている課題を明らかにすることで、市場における自社の最適なアプローチ方法が明確になります。
「自社と顧客の間のどの部分に営業DXを反映するのが効果的か」を把握できれば、営業DXを最大化できるでしょう。営業DXというと社内の営業活動に注目しがちですが、DXの考え方では「社内の営業活動」と「顧客の購入プロセス」のどちらも最適化することが求められます。
顧客の課題がわからない場合は、ヒアリングを実施すると良いでしょう。詳細なコミュニケーションをはかるためには時間がかかりますが、自社の強みや弱みを再確認する機会でもあるといえます。
営業フローを見直す
従来の営業フローにこだわらず、
IT技術を取り入れた新しいプロセスに変革することを受け入れて、営業フローの見直しを行いましょう。「質より数を重視する」従来の戦略は非効率になりやすいため、効率的な営業活動を行える体制を整えることが大切です。
一般的に、現状の営業フローを基盤にしてIT技術を導入するやり方では大きな成果が期待できないといわれています。導入予定のツールがどのような機能をもっているのかを十分に把握したうえで、自社がどういった目的に活用したいのかを明確にしてから営業フローを再構築する必要があります。
DXに詳しい人材をチームに入れる
チーム内の全てのメンバーがDXの専門知識をもっている必要はありませんが、営業DXを成功させるためには、チームのなかにDXに詳しい人材を入れることも重要です。
IT技術やDXの概念を詳しく理解している人材に加えて、マーケティング部門と密にコミュニケーションをとっており、顧客ニーズを理解している人材も確保することをおすすめします。さらに営業DXに対する強い意識をもっている人材など、現場の状況を把握している従業員をチームに組み入れることが営業DX導入の成功のポイントです。
自社に適したツールを導入する
営業DXの目的に応じて自社に適したツールを導入しなければ、期待した成果は上げられません。そのため自社のDXの目的を明確にしたうえで、目的に合ったツールの導入を検討することが重要です。
加えて、単に機能が豊富だからといって自社のニーズを満たすシステムであるとは限らないため、費用対効果も踏まえて独自の視点で精査することが大切だといえるでしょう。
営業DXの取り組み事例
最後に、国内外の企業における営業DXの取り組み事例をご紹介します。
富士通
機器メーカーの富士通では、営業DXを推進するにあたって営業が果たす役割そのものを見直した結果、営業職というポジションの撤廃を決めました。代わりに新たなポジションとして「ビジネスプロデューサー」という職を新設し、インサイドセールス部門が中心となって商談のフォローや社内調整のサポートをする体制を整えています。
関連記事はこちら富士通
マイクロソフト
OSやソフトウェアメーカーのマイクロソフトは、クラウドをベースにした新たなビジネスモデルを展開し、市場における競争力を高める戦略を打ち出しました。特にOfficeのクラウド版である「Office365」は多くのユーザー数を獲得し、同社の収益を大きく伸ばしています。
従来はパッケージ版の販売が当たり前になっていたOfficeをクラウドと掛け合わせるといった施策は、新たなビジネスモデルへ変革する営業DXの一例であるといえるでしょう。
関連記事はこちらマイクロソフト
テスラ
2019年、自動車メーカーのテスラでは展開している実店舗の一部を閉鎖し、自社製品のオンライン販売を強化すると発表しました。これまで車をオンライン販売する取り組みは一般的とはいえなかったため、大々的な変革として注目を集める結果となっています。
オンライン販売を行うにあたって試乗ができないことで生じるデメリットに関しては、「購入から一定期間内および走行距離が一定以内であれば、全額返金を認める」といった対策をとっています。
関連記事はこちらテスラ
ベストバイ
アメリカの家電量販店のベストバイは、Amazonなどの大手ECサイトの台頭によって業績悪化の危機を迎えていました。そこで実店舗とWebサービスを連動させた新たなビジネスモデルを展開し、売上の向上をはかる戦略を採用しています。
具体的には「フリーストアピックアップ」という、ECサイトで注文した商品を実店舗で受け取ることができるサービスや、それに伴うECサイトの導線の改善、24時間体制のサポート設置など顧客にとって有益な多くのサービスを導入した結果、数年かけて少しずつ業績を伸ばしています。
関連記事はこちらベストバイ
フォルクスワーゲン
自動車メーカーのフォルクスワーゲンでは、社内にソフトウェア部門を新設し、車両にかかわるサービス用ソフトウェアの約60%を内製化する方針を打ち出しました。さらに欧州圏内の新車販売をオンラインに移行し、顧客のIDに紐づけてきめ細かいサポートを行っています。
加えて、今後は2025年ごろまでにカーシェアリングサービスなども展開し、営業DXによって約11億ドルの売上を創出する計画を立てています。
関連記事はこちらフォルクスワーゲン
まとめ
DX(デジタルトランスフォーメーション)の考え方を営業活動に取り入れる営業DXによって、従来のアナログな営業が刷新され大幅な効率化につながる可能性があります。これまでの常識にとらわれることなく、IT技術の導入をきっかけに業務フローの刷新をはかりましょう。
営業DXに取り組む際は、自社の目的を明確にしたうえで顧客が抱えている課題にも寄り添うことも大切です。今回ご紹介した事例も参考にしながら、自社ならではの営業DXの方向性を見つけてみてください。