ランチェスター戦略の考え方やルール、使い方を徹底解説!
戦力の豊富さを基準に「強者」と「弱者」に分類するランチェスター戦略は、それぞれが自社にとって有利にビジネスを運ぶための手段として戦略的に用いられています。今回は、ランチェスター戦略の考え方やルール、使い方について詳しく解説します。
目次
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略は、現代のマーケティング理論の一種です。戦力が豊富な「強者」と、戦力に乏しい「弱者」に分類した上で、強者と弱者がどのように市場で自社を有利な立ち位置に引き上げるかを考えるための理論として用いられています。
ランチェスター戦略の大元となっているのは後述する「強者の戦略」と「弱者の戦略」の2つの戦略であり、「同じ武器をもっているのであれば、勝敗は兵力によって決まる」という考え方を前提としています。
ランチェスター戦略が生まれた背景
元々のランチェスター戦略は、マーケティング理論として生まれたわけではありませんでした。「ランチェスターの法則」と呼ばれるランチェスター戦略の大元となる考え方は、1914年に開戦した第一次世界大戦の空中戦被害を研究していた「フレデリック・W・ランチェスター氏」が生み出したといわれています。
ランチェスター氏は前述の「同じ武器をもっているのであれば、勝敗は兵力によって決まる」という考え方を編み出し、この考え方を取り入れて、当時のアメリカ合衆国のコロンビア大学教授たちが軍事戦略モデルとしてあらためて提唱しました。
ランチェスター戦略がマーケティング理論として活用され始めたのは戦後のことで、日本のコンサルタントである田岡信夫氏によってビジネスへと転用され、現在でも広く用いられています。
ランチェスターの法則とは
ランチェスターの法則は、「第一法則」と「第二法則」にわけて語られるのが一般的です。ここでは、それぞれの法則について詳しくご紹介します。
第一法則
第一法則は、1対1で戦う場面を想定した戦略であり、別名「一騎打ちの法則」と呼ばれることもあります。
例えば同じ武器を所有している兵士が50人いる部隊と30人いる部隊が激突すると、50人武器をもっている部隊は20人が生き残りますが、30人しか武器をもっていない部隊は全滅します。しかしナイフをもった兵士10人と銃をもった兵士10人が同時に激突すると、武器として効力の高い銃のほうが勝ることから、同じ人数であってもナイフをもっている10人が全滅します。
つまり「武器の威力が同じ状態でぶつかり合えば、戦力が多いほうが勝利する」という法則が、第一法則となっているのです。
これは、人数が多い企業に少数精鋭が勝つためのマーケティング理論である、「弱者の戦略」に通じている法則だと考えられています。
第二法則
第二法則は、「1対多」もしくは「多対多」の攻撃を想定しており、「集中効果の法則」とも呼ばれています。広範囲を戦闘域とした広域戦や、攻撃対象から距離を取って戦う遠距離戦などを想定して考案された法則といえるでしょう。
1人で複数の相手を攻撃できるという状況から、マーケティング理論としては市場で優位に立っている強者が市場で戦い抜くための「強者の戦略」に通じていると考えられています。
ランチェスター戦略には3種類ある
ランチェスター戦略には、主に3つの戦略が存在します。ここでは、3つの戦略の概要や活用方法について解説します。
弱者の戦略
弱者の戦略では「同じ武器をもっている場合は兵力が多いほうが勝利する」という第一法則の考え方を採用します。
ビジネスに応用する場合の一例として、弱者(兵力に乏しい企業)が強者(兵力が豊富な企業)に勝利するためには、ビジネスの領域をある程度限定した上で、多数の競合他社を相手にしないことが重要になります。
そこで自社にとって得意な領域を絞り込んで市場に参入し、競合他社を1社だけに限定して「1対1」の構図に持ち込みます。その上で、競合他社ではなく顧客に向けた販売戦略を重視した「接近戦」を仕掛けるというものです。
さらに、商品やサービスを手広く展開するのではなく1点集中型のビジネスが効果的だといわれており、競合他社が考えないようなアイディアを用いることも有効とされています。
強者の戦略
強者の戦略は、1社で複数の競合他社を同時に攻撃できるような豊富な戦力をもっている企業に効果的な戦略です。自社が市場のなかで強大な武器や戦力をもっているのであれば、できるだけ大きな市場にターゲットを定めて進出するのが有効だといわれています。
ランチェスター戦略において強者の戦略では「確率戦」を行うことが推奨されており、新商品を積極的に展開したり、取り扱いアイテム数を増やしたりする戦略が効果を発揮するとされています。
さらに遠距離戦が有効であることから、自社ブランドや商品の広告を大々的に打ち出すことも高い効果が期待できます。加えて、自社がもっているあらゆる武器を総動員し、自社の戦いやすい市場に競合他社を誘導して戦う戦略も有効です。
マーケットシェア理論
マーケットシェア理論は、「市場における自社の地位は市場占有率や占拠率で決まる」という考え方のことです。独立した1つの戦略というよりは、ランチェスター戦略から導きだされた理論や、戦略をもとに新たに生み出された理論であるといえます。
マーケットシェア理論では、業界内における自社のシェア率を7つの段階に振りわけて、自社が位置する段階に即した戦略を取ることで効果的な経営を目指します。
ランチェスター戦略で守らなければならないルール
ランチェスター戦略を実行する際に守らなければならないルールには、次の3つがあります。
1点集中主義
1点集中主義とは、「ターゲットを1つに設定し、目標を達成するまで集中的に1点を攻撃する」という考え方を指します。
一旦ターゲットとなる市場を設定したあとは、その市場に経営資源を集中的に投入することで競合他社に対して優位に立てる状況を作り出します。
ナンバーワン主義
ランチェスター戦略では、「ナンバーワンになること」が重視され、2位以下は全て弱者であるという結論が出されています。しかし「ナンバーワン」とは「総合的なナンバーワン」ではなく、「特定の市場におけるナンバーワン」を指します。
具体的には、「2社が競合した場合に、1位が2位のシェアに3倍の差をつける」「それ以外の項目は1位が2位のシェアに1.7倍の差をつける」ことであると定義されています。
足下の敵攻撃の原則
足下の敵攻撃の原則は、市場で高いシェアを獲得したいと考えた場合に、自社よりもワンランク下に位置する競合他社からシェアを奪うのが効果的であるという考え方です。
自社よりも高いランクに位置する競合他社からシェアを奪おうとするよりも、勝利しやすい相手と戦ってシェアを獲得することを目指したほうが割くリソースは少なくて済みます。さらにワンランク下の相手を倒すことで自社のシェアが伸びて、ワンランク上の競合他社との戦力差も縮まるでしょう。
ランチェスター戦略がよく使われる場面
ランチェスター戦略がよく使われる場面には、次の4つがあります。
地域戦略論
地域戦略論とは、営業をかけるエリアを細かく分類して、ある特定の地域のナンバーワンを目指す戦略です。
全国で高いシェアを獲得している競合他社には勝てなくても、特定の地域では圧倒的な知名度を誇るスーパーなどが代表例です。
営業戦略
営業戦略とは、組織全体のマネジメントをどのように進めていくかを戦略立てて考えることです。
自社の商品やサービスをより多くの顧客に購入してもらうためにはどのような営業手法を採用すれば良いのかを検討し、実行に移すための計画のプロセスであるといえます。
流通戦略
流通戦略とは、自社の商品やサービスの流通チャネルを管理して自社のシェアを広げていく戦略のことです。
近年では実店舗だけでなく、インターネットを活用した通信販売を行ってシェアを拡大する企業も増えてきています。
市場参入戦略
市場参入戦略は、主に経営層やマーケティング部門に求められる戦略です。商品企画や市場開拓、新規事業への参入などを通じて、どのように市場へ参入していくのかを筋道立てて考えることが求められます。
先に参入する市場を選んで商品企画を行うか、商品企画を行ってから参入する市場を選択するかによっても戦略は変わります。自社に既に市場に参入できる商品やサービスがある場合は参入先の市場を検討し、まだ商品やサービスがない場合は参入したい市場を十分にリサーチした上で商品やサービスを開発することが奨励されるでしょう。
まとめ
戦争時の効率的な戦い方をマーケティングに転換したランチェスター戦略は、「弱者の戦略」と「強者の戦略」のどちらを選択するかによって実行する施策が大きく変わります。自社がどちらに分類されるのかを理解した上で、市場にどのように参入していくのかを決めることが大切です。
1点集中主義やナンバーワン主義など、ランチェスター戦略には守らなければならないルールがあります。このようなルールも意識しながら、上手く自社のマーケティング施策に取り入れてみましょう。