アップセルとは?クロスセルとの違いやメリットについて解説
顧客単価やLTVを向上させたい場合、ワンランク上の商品やサービスを購入してもらうアップセルに取り組むことが大切です。そこで今回はアップセルの基礎知識やクロスセルとの違い、メリットなどについて解説します。
目次
アップセルとは
アップセルとは、顧客一人あたりの単価を向上させるための営業手法の一種です。
具体的には「より上位の製品やサービスを購入してもらうことで売上アップをはかる」ことを指し、「上位グレードの提案」「まとめ買いの提案」「定期購入の案内」の3種類にわけられます。
上位グレードの提案では、自社の製品やサービスのなかでより高いグレードのものを購入してもらうことによって、顧客単価の向上をはかります。まとめ買いの提案においては、同じ製品をセット購入してもらったり、複数個まとめ買いしてもらったりすることで売上アップをねらいます。
さらに定期購入の案内では、自社製品のトライアル購入を行った顧客に定期購入をすすめて継続的な売上確保をはかります。
少子高齢化による人口減少で国内の市場は縮小傾向にあることから、アップセルは「多くの人に購入してもらい売上を確保する」のではなく、「一人の顧客にたくさん購入してもらい売上を確保する」という観点で注目を集めている手法といえるでしょう。
クロスセルとの違い
クロスセルとは、提案済みの自社の製品やサービスに加えて関連製品の購入をすすめることで売上アップをはかる営業手法のことで、アップセルとクロスセルはよく並行して利用されます。
例えばスマートフォンを新規購入した顧客に対して、スマートフォンケースの購入をプラスアルファですすめる営業手法がクロスセルです。ここにアップセルを組み合わせる場合は、スマートフォンの機種をより高額な上位の機種にすることをすすめたり、契約するプランのグレードを一段階引き上げたりすることが想定されます。
アップセルのメリット
アップセルを営業手法に取り入れるメリットとして、次のようなものがあります。
顧客単価が向上する
アップセルをうまく取り入れることによって、顧客単価の向上が期待できます。
多くの顧客に製品やサービスを販売することも売上を向上させる手段のひとつですが、顧客単価を向上させることによっても売上拡大をはかれます。一人あたりの顧客単価を向上できれば少ない顧客数で同じ売上目標を達成できるようになるため、売上効率も向上するといえるでしょう。
前述のとおり少子高齢化によって日本の人口は減少し続けており、多くの顧客に製品やサービスを販売することは少しずつ難しくなってきているとも考えられるでしょう。このような課題を解決する上でも、アップセルの導入が役立ちます。
LTVが向上する
アップセルの導入によって、LTV(顧客生涯価値)の向上も見込めます。
LTVとは「一人の顧客が企業に対して一生の間に支払う金額」のことであり、LTVを向上させられれば効率的に売上を確保できると考えられます。
新規顧客と既存顧客の関係については、「1:5の法則」と呼ばれるマーケティング業界ではよく知られた法則があります。新規顧客と既存顧客の獲得コストは1:5、つまり新規顧客を一人獲得するためのコストは既存顧客を一人維持するためのコストの5倍かかるという法則です。
このことからも、新規顧客を獲得することも重要ではありますが、既存顧客を維持して売上を向上させるほうが効率よく売上を上げられる可能性は高いといえます。
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アップセルのデメリット
アップセルにはメリットもありますが、いくつかのデメリットも存在します。ここでは、代表的な2つのデメリットをご紹介します。
押し売りに思われやすい
顧客単価を向上させたい気持ちが強すぎるあまり、顧客が求めていない製品を無理にすすめてしまうと、押し売りに思われてしまう危険性があります。製品の購入を検討している顧客が「押し売りされている」と感じてしまうと、製品の購入自体を断念してしまう可能性もあるでしょう。そのような状況に陥れば、結果的に売上が減少することも考えられます。
購入が成立したとしても押し売りだと思われているのであれば、顧客からの信頼を大きく低下させてしまいかねません。次回以降の乗り換えを検討されたりクレームの原因になったりするため、アップセルを実施する際は押し売りにならないように注意が必要です。
顧客に迷いを生じさせる
グレードの高い商品をすすめることで、購入を決めかけていた顧客に迷いを生じさせる可能性もあります。
顧客が「選択するのが難しい」と感じると、元々購入を決断していたはずの製品の購入まですべてキャンセルにしてしまうケースも考えられます。アップセルを行う際は、状況を見極めて上位製品をすすめることが重要です。
アップセルを成功させるための3つのポイント
アップセルを成功させるためには、次の3つのポイントを意識しながら導入を進めましょう。
顧客情報を正確に分析する
アップセルを成功させるためには、顧客情報を正確に分析することが求められます。顧客の過去の購入情報や行動履歴を詳細に分析することで顧客一人ひとりが「どのような関心をもっているのか」を明らかにし、適切な製品をすすめられる状況を整えることが大切です。
十分な分析を行わないままアップセルを行うと、顧客が関心をもっていない製品やサービスをすすめてしまい、前述のような押し売りによる信頼の低下にもつながる可能性があります。
あくまでも顧客が関心をもっている、またはもちそうな製品やサービスをすすめることが大切です。
アップセルに結びつきやすい製品企画を意識する
アップセルを行うためには、自社の製品やサービスがアップセルに対応していることが必要不可欠です。例えばプランが1つしかないサービスを提供している場合は、そもそも上位プランがないためアップセルを実施することはできません。
移行可能なプランを設定するなど、あらかじめアップセルに結びつきやすい製品企画を意識しましょう。
顧客エンゲージメントを高める
アップセルの成功には、顧客エンゲージメントを高めるための施策も重要になります。顧客と継続的にコミュニケーションをはかるなかで信頼関係を構築し、適切なタイミングでアップセルを実行することでスムーズに顧客単価を向上させやすくなります。
信頼関係ができあがっていない場合、押し売りに思われるなどのリスクが発生しやすいため、まずは顧客との信頼関係を築くことを意識するのが大切です。
関連記事はこちら顧客エンゲージメントとは?注目される理由と向上のメリットを解説
アップセルに適しているタイミングとは?
一般的に、新規顧客へのアップセルは「顧客が購入を決断する直前のタイミング」で行うと成功率が向上するといわれています。購入直前は顧客が自社の商品やサービスに対して高い関心をもっており、上位グレードの商品やサービスにも関心を示す可能性が高いためです。
一方で既存顧客へのアップセルは、「契約更新のタイミング」が適しているとされています。契約更新を行うということは、顧客が自社の商品やサービスに一定以上の満足感を得ていると考えられるためです。
アップセルの具体例
最後に、アップセルを実施する際に参考になる具体例を2つご紹介します。
大塚商会
大塚商会は、さまざまなITソリューションを提供している企業です。同社では自社開発のCRM(顧客管理システム)を効率的に運用することで顧客情報を的確に分析し、アップセルやクロスセルを成功させています。
加えて一人ひとりの顧客情報を明らかにした上で現在の商談状況を可視化し、どのタイミングであればアップセルやクロスセルを成功させられるのかをわかりやすくすることで、顧客単価の向上に結びつけています。
株式会社ヤクルト球団
株式会社ヤクルト球団はプロ野球チームの「ヤクルトスワローズ」の運営母体となる企業で、ファンクラブの会員制度に対してアップセルを活用しています。
具体的には、同社が行った顧客調査において「入会記念ユニフォーム」が顧客ロイヤルティの向上に大きく貢献していることが判明したため、「ファンクラブの最上位グレードに入会するとユニフォーム特典が充実する」というメリットを付与するという取り組みを行いました。結果的にこのアップセルによって最上位グレードの会員数が大幅に増加し、売上アップにつながっています。
参考:EmotionTech
まとめ
よりグレードの高い製品やサービスを提案するアップセルは、顧客単価やLTVの向上に効果的な営業手法です。しかし進め方によっては顧客から押し売りだと思われかねないため、顧客の関心を十分に把握した上で適切な商品を提案することが大切です。
アップセルが成功しやすくなるのは、新規購入や契約更新のタイミングだといわれています。自社にとって適切なタイミングも考慮しながら、アップセルをうまく営業に取り入れましょう。