マーケティングファネルはなぜ重要?種類別に基礎知識を解説
マーケティング業界ではよく耳にする「ファネル」という言葉ですが、どのような意味をもつのかわからないという方も多いでしょう。そこで今回は、ファネルの重要性や種類別の基礎知識、ファネルが古いといわれる理由や効率的な管理手法についてご紹介します。
目次
ファネルとは
ファネルは英語で「漏斗」という意味をもちます。
マーケティング用語のファネルは「マーケティングファネル」とも呼ばれ、「ユーザーが商品やサービスを認知してから、購入を完了するまでの間に、プロセスが進むにつれて人数が減少していく様子を漏斗の形で図に表現したもの」を指します。
例えばECサイトの訪問者が100人いたとしても、全員が検索ボックスから商品を検索するとは限りません。加えて商品を検索した人のうち、実際に購入に進む人数はさらに絞られます。
このように、ファネルの考え方においては「認知→興味→比較・検討→購入」とプロセスが進行する順に途中で離脱するユーザーは増えていき、一部の人だけが残るのが一般的です。
最近では、商品の購入が完了した後にSNSやブログなどで口コミやレビューをシェアする人が多いことから、シェアもマーケティングファネルのプロセスに含めるケースもあります。
ファネルはなぜ重要なのか
マーケティングファネルは、ユーザーが商品を認知してから購入に至るまでの一連のプロセスをあらわします。このファネルで表現されるそれぞれのプロセスにおいて、販売側はユーザーへのアプローチを柔軟に変化させながら興味・関心の度合いを高めていかなければなりません。
例えば、まだ十分に商品への関心が高まっていない段階で商品の購入を強く勧めると、見込み客は押し付けられているように感じて離脱してしまう可能性が高いでしょう。このような離脱を防止するためにも、見込み客がどのプロセスに位置しているかを正確に把握して、その時々のタイミングで求めている情報を的確に提供する必要があります。
マーケティングファネルを広告運用に活用することも可能です。既に商品を絞り込んで購入を検討しているユーザーに対しては、自社の商品が他社と差別化されている点を押し出した広告を表示させて関心をひきます。まだ十分な興味をもっていないユーザーに対しては、印象的なキャッチコピーで興味をもたせるように工夫するなどの方法が考えられます。
ファネル分析の例
ここでは、実際のECサイトにおける購入行動を例として、ファネル分析の活用方法をご紹介します。
ユーザーがECサイトを訪問して商品を購入するまでの流れとしては、「ECサイトを訪れる→商品ページで商品を検索し、目当ての商品を見つける→商品の詳細ページを開き、特徴やサイズ、機能や価格を詳しく確認して他の製品と比較する→購入を決断する→商品をカートに入れ、決済画面に進む→注文処理を行い、商品の購入が完了する」という手順が考えられます。
このプロセスをファネル分析に当てはめると、「ECサイトを訪れる(100人)→商品ページで商品を検索し、目当ての商品を見つける(80人)→商品の詳細ページを開き、特徴やサイズ、機能や価格を詳しく確認して他の製品と比較する(40人)→購入を決断する(20人)→商品をカートに入れ、決済画面に進む(15人)→注文処理を行い、商品の購入が完了する(10人)」のように、段階的に減少すると想定できます。
例えばECサイトを訪れた人が100人いたものの、商品ページから検索して商品を探した人が80人であれば、20人はトップページや他のページを軽く閲覧しただけで離脱してしまったことになります。加えて、商品をカートに入れて決済画面に進んだ人は15人いたものの、実際に注文を完了した人が10人しかいなかったということは、5人が注文段階で何らかの要因によって離脱してしまったことを意味します。
この結果から「注文ページに何か問題があるのではないか」と推測され、具体的な対策を立てられるようになります。
ファネルの種類
一口にファネルといっても、その種類はさまざまです。ここでは、ファネルの具体的な種類と考え方についてご紹介します。
パーチェスファネル
パーチェスは英語で「購入」を示す単語であり、パーチェスファネルはユーザーが商品の存在を認知してから、実際に購入するまでの行動の流れを図であらわしたものです。
前述の通り「認知→興味・関心→比較・検討→購入」のプロセスを経るごとにユーザー数は絞られていき、漏斗のような形になることからこのような名称がつけられています。
パーチェスファネルは「AIDMA」というモデルが元になっており、商品やサービスの購入を決意するまでの思考の変化をあらわします。
AIDMAは顧客が商品を購入するまでのプロセスを表現するフレームワークのことで、「Attention:商品を認知する」「Interest:興味をもつ」「Desire:購買意欲が高まる」「Memory:記憶する」「Action:購入する」の5段階で表現されます。
一般的に「ファネル」とだけ呼ぶ場合はパーチェスファネルを指すことが多いですが、ファネルはさらに細かく3種類に分けられます。ここでは、それぞれの特徴をご紹介します。
TOFU
TOFUは「Top of the Funnel」の頭文字を取った言葉で、ファネルの上層部に相当する潜在顧客層を指します。 AIDMAモデルにおいては「Attention」のプロセスにあたり、商品やサービスをそれほど深く認知していない、関心も十分に高まっていない層をあらわします。この層は商品の購入を具体的に検討しているわけではないので、販促を行っても購入につながるケースは多くないでしょう。
この層にはまずは商品を認知してもらい、興味・関心を高めるためのアプローチを行わなければなりません。
MOFU
MOFUは「Middle of the Funnel」の頭文字を取った言葉で、ファネルの中間層に相当する見込み客層を指します。AIDMAモデルにおいては「Interest」「Desire」「Memory」のプロセスにあたります。
商品やサービスを認知しておりある程度の関心は抱いているものの、具体的に購入を決意するだけの決め手はない、という状態にある層です。購買意欲を高めるアプローチを行うことで、購入につながる可能性が高くなります。
BOFU
BOFUは「Bottom of the Funnel」の頭文字を取った言葉で、ファネルの下層部に相当する「すぐにでも購入する可能性が高い顧客層」を指します。
BOFUの段階にあるユーザーは既に商品やサービスに十分な関心をもち、競合他社の製品も含めて比較・検討の段階に入っていると考えられます。購入自体は決意しているものの、どの商品を選定するかは迷っているケースが多いため、自社の商品を購入するきっかけを与えるようなアプローチが必要です。
インフルエンスファネル
インフルエンスファネルとは、顧客が商品の購入後にどのような行動を取るのかを図で表現したものです。近年、SNSやレビュー投稿サイトに商品の使い心地や感想が積極的に共有されるようになり、顧客がトレンドの発信源になる機会が増えたという背景に対応するために作られたモデルです。
ユーザーレビューを参考にして商品の購入を決意する顧客は多いため、パーチェスファネルと複合的に活用することでより効果が高まります。
ダブルファネル
ダブルファネルは、パーチェスファネルとインフルエンスファネルを組み合わせたものです。ユーザーがインターネット上に投稿したレビューがその他の多くのユーザーに拡散・共有されることで、商品の認知度向上などの効果を発揮する、という考え方によって確立したモデルといえます。
ダブルファネルは、さらに次の4種類に分けられます。ここでは、それぞれの詳細についてご紹介します。
プロモーション
自社の商品やサービスの認知度を高めるためのマーケティング施策を「プロモーション」と呼びます。商品への興味・関心を高めて購入に結び付けるためには、まず商品そのものを知ってもらう必要があります。そこで、さまざまな方法を駆使して認知度を高める必要があるといえるでしょう。
プロモーションの方法は多種多様ですが、例えば他社主催の展示会に出展して自社の商品やサービスを知ってもらったり、テレビCMやWeb広告の出稿によって自社の存在が目に留まる機会を増やしたりする施策が考えられます。
アクイジション
英語で「獲得」や「取得」という意味をもつアクイジションは、見込み客を獲得するためのプロセスを指します。名刺やセミナーの申し込み一覧、メルマガの登録者やECサイトの会員など、さまざまな媒体を通じて収集した見込み客をリスト管理してアプローチし、案件化を目指します。
見込み客の管理方法はアナログからデジタルまで複数ありますが、エクセルやSFA、CRM、MAなどの中から自社に合った方法を選択するのが一般的です。
リテンション
リテンションは商品を購入した顧客にリピート購入を促したり、クロスセルやアップセルを行ったりすることで顧客単価を向上させる手法です。
クロスセルとは「メインの商品と一緒に関連商品を購入してもらい、顧客単価をアップさせること」を目的とした販売手法です。例えば、携帯電話と一緒に付属のケーブルや携帯ケースの購入を促すことなどが考えられます。 アップセルは「より付加価値が高い商品を購入してもらうこと」で、ユーザーが本来購入しようとしていた家電よりもランクが上の高額な家電を勧めて、顧客単価を引き上げる手法などが代表的です。
インフルエンス
インフルエンスは、自社のリピーターがSNSや口コミを通じて自ら商品やサービスを紹介するような状況を作り出す手法です。商品を購入するかどうかを検討している他のユーザーに対してリピーターとなった既存顧客が商品を宣伝することで、自社で営業活動を行わなくても検討中の見込み客の関心度合いを高められる、という考え方です。
一般的に、新規顧客の開拓には時間も費用もかかります。しかしインフルエンスの考え方によると、ユーザーが商品を紹介することで営業支援の役割を果たすため、営業コストをかけることなく利益を拡大させることにつながります。
マーケティングファネルの活用事例
ここでは、マーケティングファネルのなかでもBtoBの分野で効果が高いとされているパーチェスファネルについて、具体的な活用事例をご紹介します。
ペルソナを設定する
まずは自社の商品やサービスに関心をもち、購入を検討してくれるのはどのような顧客なのかを明らかにしておく必要があります。できるだけ具体的なペルソナを設定して、ペルソナを想定したマーケティングを行うことによって効率的に自社のターゲットにアプローチすることが可能になります。
ペルソナを設定する際は、顧客の過去の購買履歴を参考にしたり、Webサイトへのアクセスを分析したり、ヒアリングを行ったりするケースが多いといえます。
ターゲットのニーズを捉える
設定したペルソナに基づいた自社のターゲットが、なぜ自社の商品を購入しようと考えるのか、さらには競合他社の商品でなく自社を選ぶ理由はどこにあるのかなどを詳細に検討して、ターゲットのニーズを捉えることも重要です。
競合他社と自社の比較を行い、自社の商品やサービスが優れている点を洗い出した上で、どのようにアプローチすればスムーズに購入に結び付くのかを顧客の視点で考えましょう。
集客施策として活用する
具体的な施策が決まったら、実際に集客施策として活用します。
自社の顧客になる可能性があるユーザーに対してメルマガなどを通じて有益な情報を発信し、関心が高まったユーザーをリスティング広告などで自社のECサイトへ誘導するなどの方法が考えられます。
リードナーチャリングを行う
自社の商品やサービスに興味をもった顧客に対して、さらに関心を高めるためのリードナーチャリングを行います。商品情報を充実させたり、関心が高まった顧客が検索した時に自社のWebサイトへ流入できるようSEO対策によって検索順位を上げたりする手法が効果的です。
購入を検討する可能性があるユーザー層の取りこぼしを防ぎ、上位のファネルをカバーすることが大切です。
PDCAサイクルを回す
マーケティングファネルに則ったマーケティング施策を実行した後は、必ず効果測定を行ってPDCAサイクルを回し、改善につなげましょう。ファネルの各層にどの程度の見込み客がいるのかを導き出し、マーケティング施策を洗練させていきます。
ファネルの効率的な管理手法
ファネルを効率的に管理するためには、次の2点に注意して取り組むことが大切です。あいまいな考え方のまま進めるのではなく、定義を明確にした上でツールの利用も検討しましょう。
定義を明確にする
ここまでファネルの種類や考え方についてお伝えしてきましたが、実際には企業や組織によって詳細な定義は異なるケースがほとんどです。そのため、企業の目標や体制に合わせてファネルの定義を明確にしなければなりません。
それぞれのプロセスにおいて、自社ではどのようなユーザーを想定してマーケティング活動を行うのかを正確に定義しておきましょう。
加えて、「どの段階に到達したらどのような施策に取りかかるのか」「具体的な施策を開始するタイミングはどこなのか」などをできる限り具体的に策定して社内でルールを定めておくことで、効率的にファネルを管理できます。
マーケティングツールを導入する
顧客の状況を正確に把握したりアプローチの進行状態を共有したりする場合に、人の手で管理すると作業が煩雑になり工数も多くなります。そこで、効率よく管理を行うためにマーケティングツールを導入するのも手段のひとつです。
よく使われるファネルの管理ツールとしては、SFA、MA、CRM、その他の営業支援ツールがあります。
SFA
SFAは顧客別に営業活動の記録を残し、システム上でさまざまな項目を管理できるツールのことです。現在の商談状況や確度の分析、売上予測などの機能を活用することで営業状況を可視化して共有できます。
これによりチーム内で連携が取りやすくなるため、営業担当者に依存しにくくなるだけでなくノウハウを共有しやすくなるというメリットもあります。
MA
MAは、マーケティング活動を効率よく行うために自動化するためのツールです。新たな見込み客の創出や見込み客の管理、相手の行動に合わせて自動的にメールを送信することができます。
あらかじめシナリオを設計することで人の手を介さずにアプローチが可能となり、少人数の組織であっても多くの見込み客に対応できるのが特徴です。
CRM
CRMは顧客管理システムとも呼ばれており、顧客を管理・分析して利益を最大化するためのツールです。過去の訪問履歴や問い合わせ履歴を分析してメール配信を行うなど、顧客の関心を高めて自社の利益をもたらすためのマーケティング活動に使われます。
営業支援ツール
営業支援ツールは前述のSFA、MA、CRMのどれにも属さないものの、営業活動を助けるためのツール全般を指しています。アポイント獲得のためのテレマーケティングや顧客との関係性を構築するためのメールマーケティングを支援するツールをあらわすケースが多いでしょう。
メルマガシステムはメールの開封率やコンバージョン率などの指標を詳細に把握し、ファネルを管理しつつ顧客ごとの特徴に沿ったアプローチで確度を高めることができます。
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ファネルの考え方は古い?
誰もがインターネットを気軽に利用できる環境が整い、商品やサービスを購入する際には顧客が自ら情報収集を重ねて購入を検討するようになりました。従来のように営業を呼び出して購入したい商品を伝え、提案を受けるスタイルの購買行動からは大きく変わったといえるでしょう。
現在、顧客は自分が興味をもった商品を検索エンジンなどで検索して購入する商品を選ぶ際に、SNSなどの投稿型サイトに掲載されているレビューなどを参考にする例が非常に多いといえます。
かつては企業が勧める商品をそのまま購入することが多かった顧客も、機能やデザイン、価格などにこだわり納得がいくまで情報収集を行いながら欲しい商品を絞り込むことが可能になりました。
このような背景から、以前のように「認知→興味→比較・検討→購入」のプロセスを一直線に進むケースはそれほど一般的ではなくなったことから、マーケティングファネルの考え方は古いのではないか、といわれることも少なくありません。
他にも、現在の購買行動のプロセスにマーケティングファネルを対応させるには、さらに細かく顧客の行動を分類しなければならず、従来のような一直線の漏斗型では表現しきれないと主張する意見もあります。しかし、これは「マーケティングファネルの考え方が古いから根本的に考え方を変えよう」という趣旨のものではなく、プロセスを現代に即して追加することで十分に対応可能です。
BtoBでは有効な考え方
BtoCにおいては顧客の購買行動が多様化しており、プロセスを詳細に追加しなければ従来型のマーケティングファネルでは対応しきれないという主張もあります。一方で、BtoBは企業がビジネスを円滑に行ったり事業を拡大したりするためのツールとして商品やサービスを検討・購入することから、マーケティングファネルの考え方に近い一直線型の購入プロセスをたどる傾向にあります。
そのため、マーケティングファネルはBtoBにおいては非常に有効な考え方だといえるでしょう。
最近では、HubSpotによってマーケティングファネルを補完する「フライホイール」という考え方も提唱されています。
ユーザーレビューや口コミが購買行動に大きな影響を与えるようになった背景もあり、ファネルだけでは限界を感じる事業者が増えてきているのは事実です。ファネルの活用だけでは十分なマーケティング効果が得られにくいと考えるのであれば、企業の成長に関与している要素がどのようなものなのかを可視化するフライホイールを活用して事業の成長を計画するのも手段のひとつです。
まとめ
ファネルの考え方は古いといわれることもありますが、実際にはBtoBにおいて非常に有効な考え方であり、マーケティングに取り入れることによって顧客のプロセスに合わせたアプローチが可能になります。
ファネルにもさまざまな種類があるため、自社の商材やマーケティングの方向性などを加味して効果的なものを選択しましょう。時にはマーケティングツールも活用しながら、効率よく管理することが大切です。